
累計600万部を超える名作『ピアノの森』。
一ノ瀬海(カイ)がショパンコンクールで世界に羽ばたいていく姿に、胸を熱くした人も多いと思う。
そんな『ピアノの森』から、新しい物語が始まった。
それが今回紹介する『もうひとつのピアノの森 整う音』だ。
え、ピアノの森の世界がまた読めるの!?
と思った人、自分もそのひとり。
ただし主人公はカイではない。
ショパンコンクールでカイと同じファイナルの舞台に立った、向井智(むかい さとし)だ。
しかも彼が選んだのは、ピアニストではなく「ピアノの調律師」という道。
今回はそんな『もうひとつのピアノの森 整う音』1巻の見どころを、ネタバレ・画バレを含めて紹介していく。
ただし、セリフを一言一句文字に起こすようなネタバレ記事をご期待の方には、申し訳ないがご期待に沿えない。
このマンガの面白さは、実際にページをめくって味わうものだと思うので、見どころをいくつかピックアップする形でまとめていく。
『もうひとつのピアノの森 整う音』第1巻

かつてショパンコンクールで一ノ瀬海と競い合った向井智。海の演奏に衝撃を受けた彼はある決意を胸に、調律の世界を目指す。『ピアノの森』から生まれたもうひとつの物語が、いま幕を開ける――。
作者は『ピアノの森』と同じ一色まこと先生。モーニングで連載中の作品だ。
『ピアノの森』を読んでいなくても話はわかるようになっているけど、読んでいるとニヤッとできる場面がたくさんあるので、できれば本編を読んでからがおすすめ。
『もうひとつのピアノの森 整う音』1巻
ネタバレ・画バレ含む考察と感想
1巻の個人的な見どころは以下のような感じ。
主人公は、あの向井くん

向井智は、『ピアノの森』の終盤、ショパンコンクールに出場してファイナルまで勝ち残った日本人ピアニスト。
前作では終盤にしか出てこなかったキャラクターだけど、好感度でいえば屈指の存在だったと思う。

あ、あの向井くんか!
となった人も多いはず。
世界的なコンクールで最終的に10位に入りながら、向井くんはピアニストの道には進まなかった。
選んだのは、尊敬する父親の仕事でもある「ピアノの調律師」。

華々しいピアニストではなく、ピアニストを支える調律師を主人公にする。
まずこの目の付け所が面白いなぁと思った。しかも描くのは、あの一色まこと先生。とんでもなく教養と愛にあふれた作品になるに決まっていると思ったら、『整う音』を読まないという選択肢はなかった。
「耳の良さ」と「職人気質」が会社員としては…
向井くんが働くのは、楽器店の「松花楽器」。
向井くんの長所は、なんといっても耳の良さと職人気質。
本来なら、調律師としてはすでに最上級に有能な人間である。
ところが、この会社がいわゆるJTC(Japanese Traditional Company)。
日本的な古い体質の会社で、向井くんの待遇はかわいそうになるくらいひどい。

特にキツいのが、先輩の葛西。

仕事は適当で責任感もなく、向井くんに仕事を押しつけてくる。
当然、能力も責任感も上の向井くんが引き受けたほうが、いい仕事になる。

その結果、お客さんから「担当者を変えてほしい」という声が上がる……
それに逆ギレした葛西は、普通に向井くんをぶん殴る始末。

こんなバカいるか……?
と、読んでいて本気で思ってしまった。
さらにきつかったのが、もっと上の世代の先輩。

向井くんをかばうどころか、「飲みの席とかに来ない向井くんだから、そこらへんのマナーがわからなかったんだろ」とかね。

自分の仕事を他人に適当に振るのは咎められないのか…?
と、思わずツッコまずにはいられなかった。

能力も責任感もある人間が、それゆえに浮いてしまい、理不尽な扱いを受ける。
そんな場所にいる向井くんが、とにかく不憫だった。
荻さんという謎の人物

もうひとり、1巻で気になったのが荻一(おぎはじめ)こと「荻さん」。
悪い人ではなさそうなんだけど、いまいち何を考えているのかわからない。
どういう意図で向井くんに接しているのかが見えなくて、そこがちょっと怖い。ただし、向井くんが人並み外れた耳の良さを持っていて、なおかつ賢い部分があることは認めている様子。
この人、味方なのか……?
レビューを見ても「荻さんは向井くんをどうしたいんだ?」という声があって、同じように引っかかった人は多いみたい。多分、経験を積ませてやろうと思って向井君に接しているんだろう。

今後のキーパーソンになりそうな予感がする。
会社員として「調律師」をやるということ

1巻を読んでいていちばん考えさせられたのがここ。

向井くんは、能力のある職人気質の調律師。お客様の求める要求、オーダーされていないが「こうしたいんだろう」という意図まで汲み取って仕事ができる。というか「ピアノの声が聞こえる」レベル。
でも、それは会社が求めているレベルではない。

…

正直、納得はいかない。でも、「まぁ、それはそうか……」とも思ってしまった。
向井くんの能力と責任感は、決して悪いものじゃないはず。なのに会社員としてほかのメンバーと働く上では、それが軋轢を生んでしまう。

まさしく「出る杭は打たれる」。
この理不尽さがちゃんと描かれているのがすごいと思った。
「できること」と「求められていること」が違う、なんて往々にしてあるよね。
社会人なら、たぶん誰しも覚えがある……
正直なところ、向井くんならもう「会社の看板」を背負わなくても、自分の腕と、人から人への評判だけで仕事を得られるはず。
それでも彼は、会社員として働くことを選んでいる。
仲間はいなくとも、明確な目標に向かって頑張ってる向井君に心を打たれる。

その選択の理由がまた感動ものなんだけど、ここはぜひ本編で読んでほしい。
志麻ちゃんと雅、ふたりのピアノ

今後の展開がいちばん楽しみなのが、志麻夏帆(しま かほ)と神森雅(かみもり みやび)のふたり。
どちらも大聖音大に通う音大生なんだけど、性格も、奏でるピアノもまったく違う。

…

人に合わせられる志麻ちゃんと、まったく合わせられない雅。
嫉妬深く、財閥令嬢として甘やかされて育ってきた雅なので、読んでいると「はぁ~~」っとタメ息が出るくらいなんだけど、奏でるピアノにはとんでもない個性があるようで…

『ピアノの森』でも、カイと雨宮くんのように、対照的なピアニスト同士の関係が物語を大きく動かしてきた。
調律師として裏方に回った向井くんが、このふたりのピアノとどう関わっていくのか。ふたりの対比は、今後もっと面白くなっていくんだろうなぁと思った。
『もうひとつのピアノの森 整う音』
1巻の考察と感想

「できること」と「求められること」の間で
そんな1巻だった。萩さんに「時間が足りない」と相談するも「頭を使え」と言われて滅茶苦茶な仕事量を任される向井君であり、ノイローゼ気味に仕事をしていた過去の自分がチラついてきつかった…。
ステージの上で戦うピアニストを描いた『ピアノの森』に対して、『整う音』が描くのは、そのピアニストを人知れず支える側の人。
しかもただの「天才調律師の成功物語」ではなく、会社という組織の中で、その才能がうまく評価されない理不尽さまで描いている。

素晴らしい仕事をする向井君なのに、葛西や上の世代の先輩たちには本気で腹が立つし、荻さんは何を考えているのかわからない。読んでいてしんどい場面も多い。
でも、だからこそ、それでも腐らずに明確な目標に向かって進む向井くんを、応援せずにはいられない。
『ピアノの森』のファンなら、まず間違いなく楽しめる。
そして本編を読んでいない人にとっても、「お仕事マンガ」と「音楽マンガ」を一度に味わえる作品として、十分おすすめできると思う。
向井くんがどうやって目標を達成させるのか。
志麻ちゃんと雅のピアノがどう変わっていくのか。2巻以降も楽しみ。
是非、本編でしっかりと読んでみてね。
それでは。


