
1巻ではみいちゃんの「死」、2巻では「出生の秘密」、3巻では「中学時代の初恋」、4巻では「最初で最後の夏休み」が描かれてきた『みいちゃんと山田さん』。
1〜4巻のネタバレ・感想はこちら。
【死ぬまでの12か月】『みいちゃんと山田さん』1巻 ネタバレ・画バレ含む考察と感想
【出生の秘密】『みいちゃんと山田さん』2巻 ネタバレ・画バレ含む考察と感想
【歪んだ初恋】『みいちゃんと山田さん』3巻 ネタバレ・画バレ含む考察と感想
【最初で最後の夏休み】『みいちゃんと山田さん』4巻 ネタバレ・画バレ含む考察と感想
で、5巻。
DV彼氏のマオくんがいなくなり、みいちゃんと山田さんはひとつ屋根の下で暮らし始める。
え、ちょっと幸せそうじゃん……
と思える場面が、シリーズでいちばん多い巻かもしれない。
でも、1巻を読んでいる私たちは知っている。この「ふたり暮らし」が長く続かないことを。
レビューでも「今までで一番平穏な巻」「でも不穏の予感しかない」という声が多くて、穏やかなのに、ずっと怖いという不思議な読後感の巻だった。
今回もそんな『みいちゃんと山田さん』5巻の見どころを、ネタバレ・画バレを含めて紹介していく。
いつも通り、セリフを一言一句文字に起こすようなネタバレ記事ではないのでご了承を。
見どころをいくつかピックアップする形でまとめていく。
『みいちゃんと山田さん』第5巻の基本情報

歌舞伎町のキャバクラ・Ephemereを辞め忽然と姿を消してしまった、みいちゃん。DV彼氏・マオくんにお金を渡すため、より過酷な「風俗嬢」に、その身を堕としていた。一方、喪失感に苛まれる山田さんの前に追い打ちをかけるように、実の母親が現れる。“親の愛”ゆえの正論パンチに、心を蝕まれていく。肉親と、彼氏。愛情と、支配。歪な共生を断ち切れないふたりが、ひとつ屋根の下で肩を寄せ合って、眠る。ふたり暮らしの幕が開ける――――。
収録されているのは第22話〜第26話と、特別編2本。
『みいちゃんと山田さん』5巻
ネタバレ・画バレ含む考察と感想
5巻の個人的な見どころは以下のような感じだった。
キチィランドで、ふたりの「初めて」

4巻のラスト、寝坊したおかげで危機を逃れたみいちゃん。
その流れで、山田さんとみいちゃんはテーマパーク「キチィランド」へ遊びに行く。
名前よ……
実は山田さんも、子どものころは勉強漬けで、こういう場所に来たことがなかった。

だからこれは、みいちゃんにとっても山田さんにとっても「子どものころにできなかったこと」を取り戻す時間になっているのだろう。
ただ手放しで全部が楽しいというわけではなく、ルールを理解できないみいちゃんに手を焼く山田さん。

しかし、当のみいちゃんは

やりたいことができない、としか考えられない。他の人の迷惑については考えられない。

…

みいちゃんがすぐ怒ったりヒステリックになったりするのは、これまで誰も「なぜダメなのか」をちゃんと説明してこなかったからなのかもしれない。と考えて、

山田さんがみいちゃんに「なぜルールを守らなきゃいけないのか」を、列の並び方から一つひとつ、理由と一緒に教えていくところ。
2巻・3巻で描かれた家族や学校のことを思い出すと、このシーンはかなり刺さる。
山田さんの母親、再び

楽しい一日を過ごしたふたりが帰ってくると、山田さんの部屋の前には、また母親が待っていた(今回は6時間待ったらしい)。ちなみに、ここの描写はマガポケが秀逸(テロップが秀逸)。

失礼すぎるぞ母親。
で、みいちゃんを見た母親は、みいちゃんと、みいちゃんが生きている世界そのものを全否定する。

受ける教育も、住む場所も、働く場所も
すべての世界が違うのよ
正直、ここは読んでいて複雑だった。

レビューでも「お母さんの言っていることは正論では?」という声がかなり多い。たしかに、娘が大学に行かずにキャバクラで働いていて、明らかに危なっかしい子を連れて帰ってきたら、親としては止めたくなるのもわかる。

でも、その「正しさ」の枠の中だけで生きることを強いられてきたのが山田さん。
正しいけど、誰も救わない正しさ……
そして山田さんは、みいちゃんが隣にいると、母親に言い返せることに気づく。

母親を追い返した山田さんは、みいちゃんと一緒に暮らすことを決める。みいちゃんが山田さんを救い、山田さんがみいちゃんを救う。4巻から続くこの関係が、ここでひとつの形になる。少し共依存に近い関係になってしまう。
ふたり暮らしと、増えていく付箋

こうして始まった、みいちゃんと山田さんの共同生活。
ハムカツも一緒で、ハムカツの生活が一気に安心安全になったのはちょっとホッとしたが、みいちゃんとの共同生活は前途多難どころではない気がしてやまない。部屋には、みいちゃんがやってはいけないことを書いた付箋やメモがどんどん増えていく。
最初はほほえましく見えるんだけど、読み進めるうちに、山田さんがみいちゃんに対して母親と同じことをしているようにも見えてくるのが怖い。
「相手のため」が「相手を縛る」ことに変わっていく。愛情と支配の境目って、本当に曖昧なんだと思う。
もうひとつ、レビューで「ヤバすぎる」と言われていたのが、ふたりの一日の過ごし方の対比。

同じ部屋で暮らしているのに、朝になるとみいちゃんはいそいそと風俗の仕事に出かけていく。同じ時間を生きているのに、見ている世界がまるで違う。
それでも山田さんは、「明日なんか来ないでほしい。この幸せな時間が止まればいいのに」と思う。が、その時間が止まらないし、なんならそろそろ終わりが見えてきそうでドキドキした。
みいちゃんを風俗に紹介した人物
なぜ風俗の仕事を辞めないのか。山田さんがみいちゃんに問いただしたことで、衝撃の事実が明らかになる。
みいちゃんを風俗に紹介したのは、マオくんだけではなく、

キャバクラ「Ephemere」の店長だった。
え、あの店長が……?
1巻からずっと、いい人そうに見えていた店長。人を「搾取対象」として淡々と扱えるタイプがいちばん恐ろしい、というレビューがあったけど、まさにそれ。悪びれもせず、自分を正当化する必要すらない悪。

真実を知った山田さんは、キャバクラを辞める。髪もバッサリ切って、昼の世界で生きていく方向へ。
ただ、それは裏を返せば、みいちゃんが生きている世界を山田さんが離れるということでもある。ふたりの距離が近づいたのと同時に、ふたりの立っている場所はどんどん離れていく。

一方で、お店には店長が連れてきた新人・ミュウちゃんが入ってくる。
みいちゃんが抜けた穴は、また別の誰かが埋めていく。「この街の輪廻」という言葉が重くのしかかる。
ムウちゃんと、ムウちゃんのお母さん

舞台は変わって、宮城にいるムウちゃん。
作業所の畑仕事でさつまいもをもらってきたりと、穏やかに暮らしている。

ムウちゃんはみいちゃんに会いたがるけど、ムウちゃんのお母さんは、みいちゃんを激しく憎んでいる。
みいちゃんが、ムウちゃんを悪い道に引き込んでしまった過去があるからだ。

大事に育ててきた娘をそんな目にあわされたら、そりゃ恨むよね……
3巻で「いいお母さん」として描かれていたムウちゃんのお母さんだからこそ、この怒りには説得力がある。
マオくんがいなくなった今、読者のあいだでは「じゃあ誰がみいちゃんを……?」の考察がさらに盛り上がった。
桃花さんの過去と「受容体」

5巻の後半では、これまで謎だった桃花さん(モモさん)の過去も描かれる。
桃花さんはかつて、京都・祇園で舞妓をしていたらしい。通信制の高校を出て、本を読み、ずっと努力してきた人でもある。その中で語られるのが、「受容体が欠落した人間」の話が興味深かった。

痛みにも、人の好意にも鈍く、だから人に感謝するという感覚がない人がいる――。

みいちゃんが「NGなし」で働けてしまう理由や、桃花さんがみいちゃんに意地悪をする理由の一端が、ここで見えてくる。もちろん、だから意地悪していいわけではないけど、桃花さんもまた何かを抱えて夜の街にいることがわかって、キャラクターの見え方がかなり変わった。
『みいちゃんと山田さん』
5巻の考察と感想
いちばん幸せで、いちばん不穏
そんな5巻だった。
キチィランドで遊んで、ふたりで暮らして、山田さんが母親から自立する。
シリーズでいちばん穏やかで、いちばん「このまま続いてほしい」と思える巻だったと思う。
でも、その穏やかさの裏で、
山田さんはみいちゃんを「正しさ」で縛り始めていて、
みいちゃんは相変わらず夜の街に搾取されていて、
ムウちゃんのお母さんはみいちゃんを憎んでいる。

幸せな時間が描かれるほど、その終わりが近づいているのがわかってしまう。だからこそ、読んでいてずっと怖かった。
そしてもうひとつ印象に残ったのが、山田さんの母親の描かれ方。
これまで「毒親」として描かれてきたけど、5巻ではその言い分にも一理あるように見える。レビューでも「お母さんの気持ちもわかる」という声が多かった。やっぱり誰か一人を悪者にして終わらせないのは、1巻から変わらないこの作品のうまさだと思う。
巻末の6巻予告もかなり不穏なので、ここから物語は大きく動きそう。
是非、本編でしっかりと読んでみてね。
それでは。


